東京高等裁判所 昭和51年(ネ)85号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
(一) 控訴人(昭和五年四月六日生)は昭和四五年一二月頃被控訴人の妻である甲(昭和一〇年九月三〇日生)と知合い、同女の世話で前述したように被控訴人から本件部屋を賃借し、同所において甲と共同で金融業を始めた。甲はその頃から帰宅が遅くなり、深夜または明け方になることも稀ではなく、その間控訴人と行動を共にし、昭和四六年六月四日午前一時五〇分頃横浜市内を酒を飲んだうえ控訴人とふざけながら自動車を運転して他車と衝突事故を起したことがあり、また、控訴人と二人で水戸、福島方面の旅館に宿泊旅行したこともあつた。
(二) 控訴人は昭和四三年頃から妻と別居し、本件部屋(二DK約一〇坪)を賃借りしてからは同所で起居し、甲には夫である被控訴人のほか長女(昭和三二年五月七日生)と長男(昭和三三年八月五日生)があることを知りながら、同女と前記のように交際を継続し、本件部屋に甲の下着類が干されていたり、同女の自動車がその傍らに終夜駐車していたこと等もあつたため、近隣の居住者の間では両名は夫婦同然の生活をしていると噂されていた。
(三) 甲は、控訴人と交際を始める少し前、子供の学校のPTA関係で知合つたAと性的交渉を持つたことがあり、昭和四八年頃からは殆んど自宅に寄りつかなくなつたところ、当時被控訴人から今後の身の振り方を問い詰められた際、同人に対し、「今更帰れる身体でもないし」とか「あなたは充分知つているでしよう。」と答えたりした。
(四) 被控訴人は甲と昭和三一年二月二五日婚姻届を了して二人の間には前記のとおり二児があつたが、以上のような甲と控訴人の無軌道な行動から家庭内に風波が絶えず、これが原因となつて被控訴人は甲と昭和四九年一一月一六日協議離婚のやむなきに至つた。(右協議離婚の点は当事者間に争いがない。)
二控訴人と甲の間に情交関係があつたかどうかは、もともと男女間の機微に属する事柄であるから、決め手となるべき資料としては当事者本人に求めるほかはないところ、甲及び控訴人はいずれも証言又は本人尋問において右関係を否定している。しかしながら、前記認定の諸事実、すなわち、妻と別居中の中年の男性と夫以外の男性と近い過去に性的交渉を持つた同じく中年の女性が一〇坪そこそこの本件部屋で生活を共にすることが稀ではなく、深夜ふざけながらドライブをしたり、時には相携えて宿泊旅行したこともあつた両名の行状からすると、情交関係が始まつた時期は明らかでないとしても、その交際の途中から控訴人と甲の間に性的交渉が生じ継続された、と推認するのが相当である。
右認定によると、控訴人は、甲には夫である被控訴人があることを知りながら同女と情交関係を結んで継続し、これにより被控訴人の妻に対する貞潔を求める人格的利益を侵害したというべきであり、被控訴人の蒙つた精神上の苦痛・損害を賠償する責任がある。
(菅野啓蔵 宮崎啓一 高林克己)